一方の伝説ではこうあります。
12世紀のエチオピアはモカの街で、街の創設者であり守護聖人でもあったスシャデリという人物の弟子、オマルという者が訳あって街を追放されてしまう。
追放された先でオマルとその信奉者らは、偶然その辺に成っていたコーヒーの実を食すことで飢えをしのいでいた。
あるとき名医としても知られていたオマルは病人に煮だしたコーヒーを与えたが、これがとてもよく効いた。そしてコーヒーの薬効が噂で広まり、なんやかんやで彼は再びモカの街へ迎え入れられることとなった。めでたしめでたし。
以上が2つ目の伝説です。
少し補足すると、このオマルという人物は名医として名を馳せただけあって当時ペストの治療で活躍し、罹患した王女の娘まで治療してみせたそうです。ですが治療の見返りとして王の娘を自らの妻として迎え入れようと求めたところ、それが王の逆鱗に触れてしまい街を追放されてしまったそうな。
その後は先述の通りです。
叶わぬ恋により街を追放されるも結果としてコーヒーと巡り合い奇跡的に名誉挽回、そしてそれが現代のコーヒー飲用へと繋がっていく。
これもまたなんともロマン溢れるお話です。
しかしながら先に紹介した2つのお話はあくまでもただの伝説でしかありません。
実際のところはどうだったのか。
現在の研究では我々が普段口にしているコーヒーの原産地は現エチオピアの西南部であるとほぼ明らかにされています。
加えて初めて明確にコーヒーの記述を文献から確認できるのは9世紀の終わりごろにアラビア人医師が記したものと、今から1000年以上も前のことです。コーヒーって実はめちゃくちゃ歴史が深い飲み物なんですね。
先ほど紹介した2つの伝説の真偽のほどは定かではありませんが、コーヒーの原産地が現エチオピアであることと、エチオピアとアラビア半島の位置関係を考慮すれば脚色や創作があれどもあながち的外れな伝説ではないのでしょう。